予知保全は、工場や生産現場の機器や設備を24時間体制で監視しながら、故障を未然に防ぐ保全の方法です。
この記事では、予知保全の導入を検討している人に向けて、予知保全の事例やメリットを解説します。導入するポイントや注意点まで解説するため、予知保全を導入する際の参考にしてください。
予知保全とは？
予知保全とは、工場や生産現場などの機器・設備が故障する前に不具合を発見し、交換や修理する新たな保全方法です。連続的に機器・設備を監視し、劣化状況を予知します。監視するための機器を使うのが一般的であり、機器・設備の故障を未然に防ぐことや、交換する部品のムダ防止にもつながります。
予知保全と予防保全の異なる点
予知保全と予防保全の大きな違いは、保全する時期や日時です。予知保全は、機器・設備などが故障する兆候を検知するたびに保全業務をします。一方で、予防保全は定期的に決まったタイミングで保全業務をします。どちらも機器・設備の故障を防ぐための保全業務ですが、故障する直前まで保全時期を延ばせるのが予知保全です。
導入が進んでいる「予知保全システム」
機器・設備の故障や経年劣化が生じると、製造ラインが止まってしまいます。不具合や故障を未然に防ぐために、近年では予知保全システムの導入が進んでいます。IoTやAIの技術を活用した予知保全システムは、常に監視をして、オンラインでデータの収集・分析をするのが特徴です。一部の従業員だけでなく誰でも判断が可能なので、正確な保全業務ができます。
予知保全システムを導入した4つの事例
予知保全システムを導入すると、どのような変化が生まれるのでしょうか。実際に導入した企業の導入事例を解説します。
事例1. 株式会社みつわポンプ製作所
工業用ポンプを製造する「株式会社みつわポンプ製作所」は、2021年度に実施された経済産業省のプログラムに参加し、予知保全システムを導入しました。設置した各種センサーで収集したデータをAIで分析して、AI技術に適用可能か検証しました。
結果的に、構築したAIは、故障する前兆を9割もの正解率で判定できるAIモデルとなっています。現在では、新しいサービスとしても提供しています。
事例2. 株式会社前川製作所
産業用冷凍機や各種ガスコンプレッサーの製造・販売などを行っている「株式会社前川製作所」は、産業用冷凍機に予知保全システムを導入しました。永く・効率よく・機能を維持するために、システムで機械学習を実行し、顧客の使用環境に応じた正常稼働状態をモデル化しました。
導入したことにより、保守コストの削減やダウンタイム発生の制御といったメリットが生まれています。
事例3. メルコ・ディスプレイ・テクノロジー株式会社
液晶ディスプレイの開発・製造などを行っている「メルコ・ディスプレイ・テクノロジー株式会社」は、ドライポンプのモータを予知保全するためにシステムを導入しました。電流の変化からモータの故障を察知できるようになり、コスト削減や安定した生産ラインの実現につながりました。
事例4. 花王株式会社
生活用品や化粧品の製造・提供している「花王株式会社」は、製造現場に予知保全システムを導入しました。過去のデータを参考にし、予兆段階で機械の異常を事前に検知することで、トラブルを未然に防げるだけでなく、時間的な余裕も生まれました。
2021年には、技術の伝承や生産性向上の実現が他社の参考になる事例であると評価され、日本化学工業協会「レスポンシブル・ケア大賞」を受賞しています。
AIを活用した予知保全システムの導入方法や手順
実際に、予知保全システムを導入する方法や手順を解説します。導入する際の参考にしてください。
課題の共有とテーマの選定をする
まずは、システムの必要性や保全方法などを確認するために、予知保全システムの担当者と自社が抱えている課題を共有しましょう。共有した課題のなかから優先度の高いテーマを選定し、固める機会を作ることで、システム導入の成功につながります。大きな改善効果が得られ、簡単に導入できるテーマを選ぶことがポイントです。
データを取得する
次に必要なのは、AIに学習させるデータの取得です。必要なデータ量は課題によって異なりますが、時系列がそろっている必要があります。例えば、生産量データやセンサデータ、機械制御データなどが必要です。
検証とシステムの構築をする
データの準備が完了したら、データを処理し、テスト環境で検証します。システムによる課題解決が可能であることを確認したら、評価システムを構築して、実際の環境で導入できるかを評価しましょう。評価システムで運用面や機能面を改善したら、本番のシステムを構築し、運用に移ります。
実際に運用を開始する
実際に運用するシステムの構築まで準備が整ったら、本格的な運用がスタートします。実際に運用させる環境で精度が衰えた場合は、モデルチューニングや精度検証を実行し、誤検知を減少させていきます。
予知保全システムを導入するメリット
予知保全システムを導入することで得られるメリットは多くありますが、ここでは代表的なメリットを3つ解説します。
コストの削減につながる
予知保全システムを導入すると、部品や工賃の削減につながり、コストを抑えられます。事前に不具合を予知し、保全が必要なときに人員を割けばよいため、保全における人件費もカットできます。
生産性が向上する
機器・設備の故障を事前に予知できる予知保全システムを導入すると、ダウンタイムが最小化し、生産ロスを防げます。常に監視し、故障する前に保全業務ができるので、高い生産性をもたらします。
人材不足による問題を解決する
予知保全システムを導入すると、点検工程が簡略化します。誰でも保全業務ができるので、担当者を教育するコストの削減にもつながります。人員が必要なのは不具合が生じた場合のみなので、人材不足による問題にも対応可能です。
予知保全システム導入の注意点
予知保全システムを実際に導入する際には、気をつけるべき点があります。事前に確認し、導入時に備えましょう。
導入コストがかかる
予知保全システムの導入は、センサーの設置やモデルの構築など、初期コストがかかります。一定の作業時間も必要となるため、導入コストと導入後の費用対効果のバランスを検討することが大切です。
十分なデータ量が必要になる
予知保全システムに学習させるデータが不十分だと、精度の高い学習モデルを構築できない可能性があります。完全な状態で稼働させるには、ディープラーニングで精度を向上させましょう。
予知保全システムの導入を成功させるポイント
予知保全システムの導入を失敗しないために、押さえておくべきポイントを解説します。
自社に導入可能か調査する
予知保全システムは新しい保全システムであるため、自社の業務に適用できるかを導入前に調査する必要があります。インフラの整備は必須であり、環境によっては自社には導入できない可能性もあるため注意しましょう。
課題は明確に設定する
予知保全システムを導入する際は、課題をできるだけ明確に設定しておくことがポイントです。課題の解決レベルや、解決できるモデルの構築が可能であるかなど、十分に確認しておきましょう。
コストメリットがあるか検討する
予知保全システムを導入する前に、導入コストと、自社の課題を解決した場合に得られるコストメリットを計算し、メリットがあるかを検討しておくことがポイントです。管理するのは人であるため、運用に関わる人的コストも意識しましょう。
まとめ
予知保全システムは、機器・設備の不具合を予知し、故障を未然に防げます。24時間監視し、適切な保全業務ができるので、トータルコストの削減につながる点が最大のメリットです。
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