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僕の特技とLiLz Gauge

みなさま、初めまして。LiLz共同創業者の大塚です。LiLzでは研究開発業務を担当しています。LiLzのカメラで取得したデータを使って何か面白いことができないか考えたり、実験したりする人ですね。今回は僕の隠れた特技のお話と、そこから繋がるLiLz Gaugeの誕生秘話について、いくつかのエピソードを交えてお話しようと思います。

僕の生まれは北海道の東の方にある釧路というところです。製紙業や漁業で知られるこの町で、製紙工場の高い煙突からモクモクと吐き出される白煙の匂いや、風向きによって遠くから流れてくるフィッシュミール工場の匂いを嗅ぎながら子供時代を過ごしました。そのせいなのか、年中鼻炎気味でティッシュは必需品。また、親に隠れて夜な夜な布団の中でゲームボーイをやりまくったおかげで、親がせっせと苦いにんじんジュースを毎日飲ませていたにもかかわらず、視力は下降の一途をたどりました。マスターキートンにある「目がいいと人生は楽しい」というセリフを読んで、「じゃ、視力が悪いと人生は楽しくないのか?」と絶望したことを昨日のことのように思い出します(ちなみに、現在のコンタクトの度数は-9.5で、視力に換算すると0.01以下!だそうです)

ティッシュは常に携帯
友達とゲームボーイで遊ぶの図。左側が僕

そんな訳で、今でも近視で鼻詰まりのダブルパンチな僕なのですが、昔から密かに自慢の特技があります。「目が利き、鼻が利く」のです。これは「物事の本質」を見抜く力のようなもので、「将来的に古典になるもの」を直感的に見ぬく力とも言えそうです。古典というのは、時間の試練に耐え、世代や人種を超えて良いとされ受け継がれるものです。普通は長い時間が経過して初めて分かるものですが、僕はなんとなくですがそれがいち早く分かるような気がするのです。何を言ってるのだ、とつっこまれそうですが。。。

子供時代から芸大時代までは、この自己流センサーの赴くがままにミヒャエル・エンデから中上健次まで古今東西の文学作品を読み漁りました。また、UCLA在学中に心理学・認知科学・脳科学を中心に分厚い教科書を何冊も読み込んだことで、さらにセンサーの感度が磨かれたように感じます。「なぜかはわからないが、こっちは筋が良い」という直感のようなものがピーンときたら、なぜそれが良いのかを説明する材料をかき集め論理立てて周りに説明するということを子供のころから今に至るまで幾度もやってきている気がします。僕のこの「良いものセンサー」は、自分自身でもどうやって働いているのかいまいち掴めていないのですが、この特技のおかげというべきか、物事の流れが大きく変わるタイミングに出会うということが人生で数多くありました。

芸大時代に住んでいた寮の前にて
UCLAの卒業式にて友人と

突然ですが、みなさんは機械学習のバイブルと称される書籍をご存知でしょうか?人によって意見は分かれると思いますが、理論寄りの方であれば、Christopher Bishopの『Pattern Recognition and Machine Learning (2006)』(俗に言うビショップ本、PRML本、黄色本)を挙げるのではないでしょうか。この書籍は、現在では機械学習の古典として位置づけられることも多いのですが、僕が大学院生をやっていた2006年8月の発売当初はまだそれほど知名度がありませんでした。その書籍を研究室の机でパラパラとめくったときに「こっ、これは!」と直ちに「良いものセンサー」が反応し、当時所属していたOISTの銅谷研究室ですぐさま輪読会を立ち上げました。僕自身、心理学部出身という背景から数理的なアプローチには疎かったのですが、ひたすらにビショップ本の数式の行間を埋めることで、機械学習の基礎をしっかりと身につけることができました。どれほどこの本を読み込んだのかと言うと、こちらのerrataのacknowledgementに名前が乗るほどに読み込みました。のちにバイブルと称される書籍を、日本ではまだほとんどの知られてないうちから発見できたのは、良いものセンサーのおかげだと思っています。余談ですが、この経験がタイポ(誤植)を見つけるスキルを研ぎ澄ませ、後に研究室の先輩である伊藤真さんの書籍の校正も手伝うこととなりました。伊藤さんの書籍詳細。毎回、出版前にかなり細かくチェックしているので、伊藤さんの書籍に報告されていない誤植を見つけた方には、僕からビールをごちそうさせていただきます。

2006年当時の銅谷研究室のメンバーと一緒に。僕は後列左から三番目、伊藤さんは後列の一番右

直感に従って歩を進めうまく行ったエピソードとして個人的に忘れられないのは、動的ボルツマンマシン(Dynamic Boltzmann Machine、DyBM)を生み出したときのことです。昔所属していたIBM東京基礎研究所の数理科学グループでは人の行動選択のモデル(これとかこれ)を構築していたのですが、僕はというと2010年に博士の学位を取得した後もどうしても気になることがあり、仕事をしながらも頭の後ろ側でずっと考えていました。博士課程では、深層学習と強化学習とリカレントニューラルネットを組み合わせ、観測と報酬信号のみから、環境と報酬のモデルを動的に獲得しつつ部分観測マルコフ決定過程(POMDP)問題を解くというテーマ(なんじゃそりゃ!)を扱っていたのですが、ずっとリカレントニューラルネットがエネルギーベースなモデルではない点に納得いかなかったのです。ある日、ボルツマンマシンのヘブ則をSTDP則に置き換えることで、ボルツマンマシンを時系列拡張できると気づき、メインプロジェクトそっちのけで数週間コソコソ籠って動的ボルツマンマシンの理論を固めていったことがあります。これは「こっちが良いのではないか」と直感的にセンサーが働いたことが、最終的に大きな成果として実った嬉しい出来事でした(動的ボルツマンマシンの誕生秘話についてはこちら)。


IBM東京基礎研究所数理科学グループの仲間と

その後、子供が生まれることをきっかけにIBMを辞めて沖縄に戻り、しばらくはフリーランスとして活動していました。その時に偶然見つけたのが、開催第一回目となるDeep Learning Summer School 2015の告知でした。深層学習については、そういう名前がつく前の2006年から僕はトレンドを追いかけはじめ、博士課程の研究にも使っていたので、このサマースクールを見つけた瞬間に「これは!!」と直感的に思い、なんとかして参加したかったのですが、なんせフリーランスの身。どこの研究室にも属してない僕は、その時コンサルティングでお手伝いしていたCastaliaの山脇社長に頼み込んで、なんとか身分を作り参加させていただきました。講師陣は世界中の第一線の研究者達で、深層学習という言葉自体は日本でも認知されていたものの、日本から来た日本人は僕一人という状態でした(他国から来た日本人を入れてもたったの二人!)。動的ボルツマンマシンのことをサマースクール主催者で深層学習の生みの親の一人でもあるBengioさんや彼のラボの方々と直接お話する機会を得たり、後にChatGPTの強化学習リーダーを務めることになるShaneや、世界中から集まる優秀な仲間と交友を深めたりと刺激的な10日間だったなと懐かしく思い出します。これも良いものセンサーが僕にもたらしてくれた嬉しい出来事でした。

Bengioさんに動的ボルツマンマシンの説明をしているところ
サマースクールに参加した仲間との懇親会。隣にいるのが後にChatGPTを作ったShane

このように様々な人にお会いする中で、極たま〜に僕のこの「良いものセンサー」に価値を見出してくれる人がいます。LiLzの大西さんもその一人です。

「今日のミーティングは大塚さんの言いたいこと何言ってもいいから」。2017年にLiLzが高砂熱学工業さんの第一回アクセラレータプログラムに採択された後、2018年2月15日に2回目の高砂本社出張に同行させていただいた際、ミーティングの前に大西さんにそう言われ、とても気が楽になったのを覚えています。先方の提案をすべて聴いた後、「日々どのような業務をされているのですか?」とお聞きしたところ、現場の方から巡回点検で毎日計器を見ているという答えが返ってきました。この方はTMESの平井さんという方で、後に初期のLiLz Gaugeを上司である村田さんと一緒に大きく成長させる立役者となった方でした。「お、これはもしや」とセンサーが反応したので、「では、カメラを置いて計器を定点で観測するのはどうですか?」と僕が提案したところ、ドローンはどうか、360度カメラで撮影するのはどうかと、他の方たちからも活発な意見が上がってきました。最終的に、ドローンが計器の設置されている現場内を飛び回るのは危険そうなので、360度カメラを含む何らかの定点カメラを使って計器の値を自動で読むのが良いでしょうという形でミーティングは終わりました。この方向性でやっていきましょうと一番奥にいた方がやさしく皆に声をかけ、ミーティングが終わりました。その方がLiLzの成長をその後長きにわたり支えてくれている高砂の井上さんでした。

発散しかけていた問題設定を見直し、解ける問題に落とし込めたのがとても嬉しかったことを鮮明に覚えています。高砂熱学工業さんの本社ビルを出て、新宿駅に向かう途中、歩く大西さんに向かって「あの課題は筋がいいですね。名前はLiLz EyeかLiLz MeterかLiLz Gaugeですかね」と言った記憶があります。「このテーマは面白そうだ」と早速帰りの飛行機からこの課題に取り組み始めました。ですので、現時点(2023年10月19日23:00)で16,765個ものコミットから成り立つLiLz Gaugeレポジトリの最初のコミットは、このミーティングの数時間後に作られたものです。

commit 87267aa27139fdb61ad41e5b4fc24dbaab5469a4
Author: lilzOTSUKA [m.otsuka@lilz.jp](mailto:m.otsuka@lilz.jp)
Date:   Thu Feb 15 19:16:15 2018 +0900

その後、LiLzの優秀なエンジニアチームメンバーと大西さんの頑張りのお陰でLiLz Gaugeは成長を続け、今も順調にスクスクと育っています。研究者の僕にできることは基本的にゼロからイチの部分なので、今や仕事がバリバリできるメンバーがどんどん増える中、何も力が発揮できなくてなんとも申し訳ないなぁと思ったりもしますが、これからも何とか良いものセンサーを生かしてLiLzに貢献できたらなと考えています。LiLz Gaugeを筆頭としたLiLzのサービスが、国境や世代を超えて皆に愛されるサービスになると嬉しいなと感じる今日この頃です。

CEATEC AWARD 2019のトータルソリューション部門でグランプリを頂いたとき

最後になりますが、LiLzでは人に愛されるサービスを一緒に育てていける方を大募集しています。まだまだ10数名と小さな会社ですが、フルリモート勤務も可能で、世界中どこにいてもジョイン可能です。Lifelong Innovation LaboratoryというLiLzの名前にもあるように、これからも様々なことに挑戦していく予定です。興味のある方は、是非気軽にお問い合わせください。

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